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ワイン統計の真実

Kimie
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統計から見えるワインの本質

ワインの統計とデータの話です。「ワインの統計?何それ?」、「何の役に立つの?」と思う人は業界関係者の中にも多いのではないでしょうか。

辞書(大辞林)によると、統計とは「集団現象を数量的に把握すること。一定集団について、調査すべき事項を定め、その集団の性質・ 傾向を数量的に表すこと。」とあります。つまり、集団の性質などを数字で把握することが統計です。たとえば、クラスのテストの平均点がわかると、他のクラスと比べてどのくらい優れているかがわかりますし、授業がどれだけ身についているかもわかります。時間的な変化をみれば、クラスの実力が良くなっているかなども調べることができます。テストの平均点からクラスの性質を数量的にみることは統計のひとつです。

話をワインに戻しましょう。ワインの統計とは、主として、国別のワインに関するデータのことです。国毎のワインの生産量や消費量などの時間的な変化から、平均的な消費量が減ってきていることがわかるとワイナリーは輸出を増やそうとするかもしれません。スパークリングワインの消費が伸びている国があると、輸入業者はスパークリングワインの輸入を増やそうとするでしょう。輸出入業者をはじめ業界関係者に意外に役立つ情報になるのがワイン統計です。

 「日本にワインの統計があるの?」と思う人もいるかもしれません。日本では、諸外国と同様に、社会や経済の実態をとらえるために様々な統計が日々作られています。日本にどのような統計があるかは、総務省統計局の「日本統計年鑑」で調べることができます。この年鑑はネットで公開されています。平成29年の年鑑には30の分野、537の統計があることが、概要・用語の説明なども含めて紹介されています。日本のワインに関する統計は主に国税庁から発表されています。



さて、このワイン統計、日本を含め、アジアではちょっと不備があり、過大に表示されていると指摘されています(詳しくは、Anderson and Harada (2017), Anderson and Pinilla (2017)を参照)。
日本と中国を例にとり話をしましょう。中国のワイン消費は拡大を続けていますから、中国にワインを輸出したい国は多いのですが、その参考にする統計に実際より過大な数字が掲載されているなら、国際社会に与える影響は無視できません。統計で状況が正しく示されていないとしたら困ります。
なぜそんなことが起こるの?」「どこに嘘があるの?」という声も聞こえるかもしれません。それに答えるには、国の統計がどうやって作られているかから説明する必要があります。

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統計の作りかたとワイン統計の特徴

国の統計の作り方には、何種類かあります。統計調査による方法、お役所の集めた資料を集計する方法、そしてほかの統計やデータを加工計算して推計する方法です。日本のワインに関する統計は、主に統計調査に基づいています。たとえば、「調査票」と呼ばれる書類(国税庁の調査名では「果実製造業の実態調査」など)をワイナリーに渡し、記入してもらって回収する方法です。どんな原料(ブドウの種類や量、輸入原料など)からどんなワインが造られているのか、農家から購入する量と支払った金額なども集計されます。

調査票を回収して集計し、日本のワインに関する統計の土台が作られます。どこにも不備はなさそうです、そうでしょうか。いくつかの不備が潜んでいます。ひとつは、原料に関する点です。日本は、バルクワインという150ℓ以上の容器に入ったワインを輸入しています。このバルクワインは国内でリボトリング(小売り用にビン詰めしたり、箱に入れたりすること)され、国産ワインとなり、工場から出荷されています。輸入のときに「輸入ワイン」としてカウントされ、工場から出荷されるときに「国産ワイン」としてカウントされるのです。リボトリングの際に、輸入されたワインがそのまま使われているかどうかもわかりません。輸入濃縮ブドウ果汁にアルコールを添加して作られたワインも含まれるなど、します。ですので、バルクワインやセミバルクワインと呼ばれる少々小さめのバルクワインは、少なくともダブルカウントされている可能性が濃厚です。ブドウを原料にして造られたものだけをワインと呼ぶのが諸外国ですから、輸入された濃縮ブドウ果汁からつくられたワインも除くとしたら、日本で造られて消費されるワインはもっと減ることになります。

国民一人一人に飲んだワインの量を聞くことはできませんので、日本ではワインの消費量は正確にはわかりません。ワインの消費量が生産量で把握されている国は多くあります。ここでいう生産量は純輸入量(=輸入量から輸出量を引く)で調整されたものになります。日本のワイナリーや工場で作られたワイン量に、輸入ワイン量がプラスされ、輸出されたワイン(これは国外の消費となるため)量がマイナスされたものが、日本のワイン消費量になります。日本から外国に輸出されるワインはまだまだ限られていますから、日本のワイン消費量は、国内でつくられた量と輸入された量の合計とみてもいいでしょう。これらの理由から、輸入されて国内でリボトリングされる量や、輸入された果汁などからつくられたものが問題になるのです。

中国でも似たような問題が生じていると言われています(同じく、Anderson and Harada (2017)参照)。中国で収穫されたブドウを少し使っていれば中国産ワインと呼べるため、輸入ワインが混ざっているならダブルカウントの可能性が同じようにあります。それに加え、中国と香港の制度の違いも中国のワイン統計に影響しています。香港は2008年2月から、輸入ワインにかかる関税(輸入税)を廃止しました。香港で輸入されたワインを中国に運ぶことで利益を得ることができるようになったとされています(Yoon and Lam (2012)参照)。中国でワインを輸入すると関税がかかり割高なワインとなりますが、香港で輸入して中国へ運ぶことで発生するメリットがありました。正式には、香港からの再輸出として統計に出るのですが、再輸出としてカウントされていないものもあるようです。

さて、Anderson and Harada (2017)では、様々な統計を利用して、日本、中国、香港のワイン消費の実際を追求しようとしています、ネットで公開されていますので御覧下さい。
続いて次回は、世界のワイン統計についてレポートします。



【参考文献】
・Anderson, K. and K. Harada (2017), “How Much Wine is Really Produced and Consumed in China, Hong Kong and Japan?”, Wine Economics Research Centre Working Paper 0517
https://www.adelaide.edu.au/wine-econ/pubs/working_papers/WP0517.pdf

・Anderson, K. and V. Pinilla (2017), “Annual Database of Global Wine Markets, 1835 to 2016: Methodology, Derived Indicators and Sources” Wine Economics Research Centre Working Paper 0417
https://www.adelaide.edu.au/wine-econ/pubs/working_papers/WP0417.pdf

・Yoon, S. and T.-H. Lam (2012), ‘The Alcohol Industry Lobby and Hong Kong’s Zero Wine and Beer Tax Policy’, BMC Public Health 12(717): 1-12.



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