三回にわたりお伝えしてきたヴィーニョヴェルデだが、日本のメディアでもさいきんよく取り上げられるようになってきた。ポルトガルと日本には食文化や風土に共通点があるため「和食とヴィーニョヴェルデ」という切り口が多いように思う。最終回は、現地で食べたポルトガル料理から、和食とヴィーニョヴェルデについて考えてみたい。
第1回「ヴィーニョヴェルデはどこへ向かう?」
第2回「白だけじゃない緑のワイン」
第3回「ヴィーニョヴェルデのワインツーリズム」
ポルトガル料理とヴィーニョヴェルデ
ポルトガル料理は、貧しさから生まれた−今回通訳を担当してくれたポルトガル在住歴35年のあきさんが教えてくれた。ちょうどギマランイスの地元の食堂で生産者との食事中、名物料理のトリパスが運ばれてきたときだ。「16世紀の大航海時代、船員にはお肉の上等な部分を食べさせ、国民は残りものを食べた。このトリパスは、貧しさから生まれた料理の代表格。普通は捨ててしまうモツの部分を工夫して、こんなに美味しい料理を作った」という。
出てきたトリパスは、見た目も味もイメージとは違った。イタリアのトリッパのようなものを想像していたのだが、見た目は日本の黄色いカレーライスにいくらか似ている。クミン(ポルトガル語でコミーニョ)がかなりきいている。付け合わせにアローシュ(ごはん)が出てくるところも、カレーライスみたいだ。ちなみにこのごはんは、塩とオリーブオイルと玉ねぎで炊いたもので、日本の感覚でおかわりしたら、塩分過多になりそうなほどかなり塩辛かった。
▲トリパス
スパイシーなエスニック料理にはちょっと甘いワインが相性がよかったりするが、このコミーニョ香るトリパスには、少し甘みを感じる伝統的なヴィーニョヴェルデの白ワインがよく合った。ロウレイロ、アリント、トラジャドゥーラのブレンドで、ほんのり甘い花の香りにロウレイロの特徴をしっかりと感じる。わずかな泡がモツの脂身を心地よく流すだけでなく、ごはんの塩味と甘さがいいバランスだ。
ポルトガルの国民食として有名なのが、バカリャウ(干しダラ)料理だ。茹でたじゃがいもと玉ねぎのみじん切りをタラと混ぜてコロッケにした料理は、たいていどのレストランにもある定番メニューで、しゃくしゃくとしたタラの繊維の食感がクセになる一品だ。このコロッケにはロゼがいい感じだった。ラズベリーや赤すぐりなど赤いフルーツの特徴はありながらそこまで我が強くない微発泡のロゼは、キュッと冷やして、気軽なおつまみと合わせるのにはいい。
▲バカリャウのコロッケ
店内を見渡すと、ポルトガル人男性二人組が、トリパスにごはんにグラスの際まで並々に注がれた白ワインで昼食をとっていた。安価なヴィーニョヴェルデの白だろう。飾り気はなくとも、素材を生かした素朴な料理に、シンプルなヴィーニョヴェルデはいいおともになる。
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和食とヴィーニョヴェルデ
ここで頭に浮かぶのは、和食にヴィーニョヴェルデは合うのか、という疑問だ。たしかに「和食とヴィーニョヴェルデ」という組み合わせは、ポルトガルと日本のつながりの深さや食の共通点からも、わかりやすい切り口だ。
実際、日本とポルトガルの歴史はどのヨーロッパ諸国よりも古い。種子島に流れ着いた南蛮人が鉄砲を伝え、戦国時代の戦い方を変えた。当時「ちんた」と呼ばれた赤ワインは、ポルトガル語の「Tinta」に由来する。天ぷらやカステラなど、ポルトガルからきた食べ物は日本に根付いている。イワシやタコが名物で、魚を網焼きにして食べるという共通点もある。
▲海辺のレストランの軒先にて
▲だしが染みたおでんの具材みたいに柔らかったタコ
天ぷらを筆頭に揚げ物には当然のごとく合うだろう。あつあつの白身魚の天ぷらとキンキンに冷やしたヴィーニョヴェルデ、想像しただけで垂涎モノだ。ヴィーニョヴェルデ協会の人の話だと、お寿司や刺身にはヴィーニョヴェルデのロゼがぴったりらしい。少し甘みのあるものなら酢飯の甘さともマッチしそうだ。余談だが、今ポルトガルでもお寿司がブームで、生魚を食べる習慣がないポルトガル人の間では、生のお魚を食べられることがステイタスだとか。
▲現地で食べたマスのフリット
青魚にはヴィーニョヴェルデの赤だろう。一度ある企画でイワシの缶詰にヴィーニョヴェルデの赤ワインを合わせたとき、その相性に驚いたこともある。実際、今回訪れたワイン生産者も「イワシには赤だね」と言っていたから、きっと間違いない。これからの季節、秋刀魚とも合わせてみたい。
▲ポルトのレストラン「アバディア・ド・ポルト」で食べたイワシ。オリーブオイルとワインヴィネガーをかけるのがポルトガル流だが、大根おろしと醤油にすれば日本のイワシの塩焼きだ
日本のカレーに似たトリパスにロウレイロ主体の白ワインもピッタリだったから、そのままザ・日本のカレーに合わせても面白いかもしれない……ロウレイロはアロマティック品種だが、たとえばアルザスのゲヴュルツトラミネールのようには個性が強くないので、たくさん飲んでも飲み飽きないのもいい。
▲やや甘みのあるロウレイロ主体の白
和食とヴィーニョヴェルデ、確かに合いそう!妄想は膨らむばかり。だがあいにく我が家にはヴィーニョヴェルデのストックがない。最寄りのナチュラルローソンに駆け込んだが置いておらず、代わりに1600円の甲州ワインを買って帰った。翌日気を取り直して、近所のコンビニ(ローソン、セブン、ファミマ)からスーパー(イトーヨーカドー、成城石井)と行脚し、ようやく6店舗目のカルディコーヒーファームで1銘柄(白とロゼ)を見つけた。その間、1000円前後のCAVAや南アやチリ、スペイン、南仏などのすっきり系白ワインに目移りしそうにもなった。コンビニやスーパーでワインは買わないよ、という人もいるだろうが、いま日本で一番売れているワインは、コンビニでよく見かける小売1000円以下のチリの動物ラベルのワインなのだ。ふだんの和食とヴィーニョヴェルデを推進するなら、今夜のご飯に合わせたい!と急に思ったときにもすぐ手に入るよう、身近なスーパーにヴィーニョヴェルデを常備してくれないだろうか。結局本題の「和食とヴィーニョヴェルデ」、筆者はいまだに試せないでいる。
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