ポルトではポートワイン!
昔からこじんまりとした都市が好きな筆者には、ポルトは街の大きさがちょうどいい。リスボンに次ぐポルトガル第二の都市といえど、どこか都会になりきれない良い意味での垢抜けなさが落ちつく。宿泊していたクラウンホテルやシェラトンのあるエリアから観光の中心地までは徒歩では30分以上かかるが、タクシーで一度移動してしまえば、そこからは徒歩であちこち回ることができる。道の両脇を彩るカラフルなタイル、石畳の坂道。時折見られる色とりどりの洗濯物に、地元の人びとの息吹を感じることができる。
ポルトといえば、ポートワインの名産地だ。「世界一美しい書店」として世界中から人が集まるレロ・イ・イルマオンから街歩きをスタートし、サンベント駅の壮大な壁画を眺め、坂道をおりたり登ったりしながらサン・ジョアン通りに入る。通りの両脇には、ポートワインを売る酒屋やテラス付きのカフェが並んでいる。急な坂道を下っていくと、突然視界が開け、リベイラ広場に出る。大西洋につづくドウロ川を挟んだ対岸は、ポルト市ではなくヴィラ・ノヴァ・デ・ガイア市に属する。ポートワインの貯蔵庫がずらりと並ぶさまは圧巻だ。
▲坂道を下ると視界が開ける
翌日からのワイナリー取材に備えて、その日は特に決まった予定を入れずに街をぶらぶらするつもりだった。が、いざ居並ぶポートのワインセラーを前にすると、ちょっと覗いて見たくなる。対岸へはドン・ルイス1世橋を渡ればすぐだ。ドウロ川沿いの目抜き通りをざっと歩いて、一番敷居が低そうな「ラモス・ピント」に入る。観光客向けの英語ツアーに参加することにした。幸いにも飛び入りで参加できた小一時間のツアーには、古いポートの資料や貯蔵庫の見学、簡単なポートワインの製法の説明、それに2種類のテイスティングがついて12ユーロだ。ワインのプロには物足りない内容だろうが、気軽に雰囲気を感じるにはもってこい。7月に入りバカンス客が多いのか、夕方のツアーは開始10分前には満席で、断られていた人もいた。
ヴィーニョヴェルデのアグリツーリズム
話をヴィーニョヴェルデに戻そう。以前、ジャンシス・ロビンソンの記事で、ドウロ渓谷でワインツーリズムが盛り上がっている、という記事を読んだことがあるが(参考)、ヴィーニョヴェルデでもその流れが生まれつつある。ポルトから車で約1時間、アマランテという街から25kmさらに内陸にある「グワポシュ・ワイン・プロジェクト」は、年間5万本と比較的小さな家族経営のワイナリー。ワインはすべて輸出用で、国内ではポルトにあるレストラン「アバディア・ド・ポルト」にのみ卸している。
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ここでは、ワイナリーに客室やレストランを併設したアグリツーリズムを提供している。この日もワイナリーを訪れると、宿泊客はプール前に置かれたリクライニングチェアでゆったりとくつろいでいた。サイクリングコースを表示する看板があったので興味を示すと、「ワイナリーの周りにはサイクリングコースも建設中だ。この緑のコースは7km……」とワインの説明と同じくらい熱心に説明してくれた。
このあたりは標高約400mと比較的高く、昼夜の寒暖差が大きい大陸性の気候だ。ぶどう畑の周りにはレモンやオリーブの木が植えてあり、昼間はじりじりと直射日光が照りつける。訪れた日は、テイスティングを全て終えた18時ごろでもノースリーブで大丈夫なほどの気候だったが、夜になれば相当冷え込むのだろう。
テイスティングは瓶内二次発酵で二年熟成した今年初ヴィンテージだというスパークリングワインから始まり6種類。ラベルに品種名と標高が書かれているのもわかりやすいプレゼンだ。基本的には単一品種でワインを作っているが、ロウレイロ、アルバリーニョが知名度が高く人気があるという。筆者のお気に入りは「標高450m」のアルディナ・ブランコ。アザールとアリントとのブレンドで、残糖は10g/Lと高めだが、それを感じさせないほどのキリッとした酸が味わいが印象的だった。「これは標高何メートルで……」なんて地図と照らし合わせながら飲み比べるのも楽しい。
▲樹齢25年のアザールの畑
アザールの畑を見学させてもらった。アザールは内陸部での栽培に向く品種だが、実がぎゅっと詰まっているのでかび病などの病気になりやすく育てるのが難しいそう。
仕立てが高くなっているのは、昔はぶどう木の下でトウモロコシを植えていた名残だが、今は収穫しやすさを重視して、どんどん低くしているそうだ。
▲伝統的な棚仕立ての樹齢40年のイシュパデイロ(「ヴィーラ・ノーヴァ」にて)
ヴィーニョヴェルデは湿度が高いこともあり、伝統的には棚づくりでぶどう栽培を行ってきたが、作業の効率化と高品質なぶどう造りのため、現在は垣根栽培に移行している造り手が多い。
ただ、近代化を急速に進めることは必ずしもいいことづくめではない。「ヴィーニョヴェルデの個性でもある風情あるぶどう棚の景観が失われている」と危惧する声もある。ぶどう棚のつくる日陰で涼をとる体験は、ヴィーニョヴェルデでの滞在に彩りを添えてくれる。守るべきものは残し、変化も受け入れること、それが今のヴィーニョヴェルデに求められていることなのかもしれない。
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