ヴィーニョヴェルデというと、その「ヴェルデ(緑の・若い)」という語源からつい白ワインを想像しがち。意外にも、かつては赤がよく飲まれていた。地域全体の数字を見てみると、白の生産比率が86%、赤とロゼ’が各7%と、大半が白ワインを占める1。現地でテイスティングしたのも当然白ワインが多かったのだが、ここであえて白以外のワインにも目を向けてみるのもおもしろい。
多様化するスパークリング・ヴィーニョヴェルデ
微発泡のヴィーニョヴェルデは1気圧以下なので「スティルワイン」に分類されるが、3気圧以上の正真正銘のスパークリングワインも少量ながら作っている。特筆すべきは、2015年にスパークリングワインの法律が変わったことだ。ヴィーニョヴェルデと名乗るには、それまで瓶内二次発酵方式しか認められていなかったのだが、二次発酵をタンクで行うシャルマ方式も採用できるようになった。シャルマ方式を採用すれば、コストも下げられる。作りたいスパークリングワインのスタイルを作り手が選択できるようになるということだ。今回現地で試飲したスパークリングワインはすべてクラシックなタイプで、酵母由来の旨みを感じるものが多かったが、今後、プロセッコのようなフルーツのアロマ主体のスタイルがどんどん出てくるかもしれない。
▲「カーザ・デ・ヴィラ・ノーヴァ」では、池に面して造られた自然のセラーでスパークリングワインを寝かせていた。夏場でも温度が一定に保たれるため、冷蔵庫がなかった時代はお肉などもここで保管していたという
▲この暗がりの奥にお宝が眠っている
ロゼも伸び傾向
ヴィーニョヴェルデのロゼも注目に値する。ロゼの生産量は全体の7%といえど、ここ10年で約3倍以上に増えている。ロゼには黒ぶどう品種イシュパデイロがよく使われる。色素の濃い黒ぶどう品種が好まれるポルトガルでは、色素が淡めのイシュパデイロは人気がなかったが、近年のロゼの生産量増加に伴い見直されている品種だ。協同組合の「アデガ・ド・ギマランイス」でも植樹を増やし、ロウレイロ、アルバリーニョと並んで力を入れているという。
▲ピチピチとした微発泡のヴィーニョヴェルデのロゼは、海辺のシーンにも
前回、挑戦的な作り手として紹介した「カーザ・デ・ヴィラ・ノーヴァ」のオーナー、ルイスさんは大のロゼ好きだ。現在ワインビジネスを担っている息子のベルナルドさんを中心にテイスティング兼ランチを進めていたところに、ルイスさんが少し遅れて登場すると、白を飛ばしてはじめからロゼばかり飲んでいる。つい「どうしてそんなにロゼが好きなんですか?」と聞くと、「リフレッシュできるから。フルーティーなチリのロゼなどと比べると、ここのロゼはもっと涼しげで、プロヴァンスのロゼに似た雰囲気もある」と、かなりのハイペースでボトルをぐいぐい開けていた。
▲ゴッドファーザーのような貫禄。肌色艶がいいのは、ロゼのおかげ?
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赤は陶器のボウルで飲むのが元祖ヴェルデ風
昔は白よりも生産量の多かった赤ワイン。使用人を持つような裕福な家では自家用に赤ワインをよく作っていたそう。驚いたのは、ミーニョ地方に伝わる伝統的な飲み方だ。ポルトガルの民謡ファドが流れるローカルなレストランでポルトガル人に飲み方を教えてもらった。
まずはマルガシュという白い陶器のボウルに、少し高い位置から赤ワインを注ぐ。
▲ワインは「ヴィーニョス・ノルテ」のヴィニャオン100%
そして色を見る。この陶器の白さが赤ワインの深い色を引き立たせてくれる。色が深ければ深いほど良いそうだ。黒ぶどう品種で栽培面積が一番大きいヴィニャオンからは、毒々しいほど濃い紫色の赤ワインができる。
ボウルを回すとワインの涙がボウルのふちを伝う。これを「ワインが泣いている」というのだそう。そしていよいよ味わう。このとき赤ワインでもちょっと冷やして飲むのがポイントだ。赤ワインを冷やして飲むと、酸味やしぶみが強調されそうな気がするが、微発泡で若い赤ワインは、どの生産者も「冷やして飲むほうが美味しい」と口を揃える。樽のニュアンスはなく、口の中をコーティングするような高い酸とざらりとしたしぶみ、そしてスパイスも感じる。独特の味わいだが、食事をしながらだとついボウルに手が伸びてしまう。こってりとしたお肉料理はもちろん、イワシにも合うそうだ。
▲「カーザ・デ・ヴィラ・ノーヴァ」で3年前(2015年)まで使われていた自家用ワイン醸造設備
▲15万リットルのワインが貯蔵できるタンク。今は水の貯蔵庫として使用
マルガシュで赤ワインを飲むのは、風情があってかなり楽しい体験なのだが、この習慣も消えつつある。今ではマルガシュ自体もお店ではあまり売っておらず、家庭でも使わなくなってきた。白ワインに移り変わっていった理由の一つは、消費者の好みが変わり、爽やかな白ワインが好まれるようになったこと。また、「濃ければ濃いほどいい」赤ワインは、白いクロスや歯に色素がついてたいへんという理由から、女性にも敬遠されていったそうだ。筆者のまわりにも、「歯が黒くなるから赤ワインは飲まない」という美意識の高い女子がいるが、そうでなくても日々家事に終われる主婦にとって、濃い赤ワインのシミは憎むべき存在になったのだろう。
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