7月上旬、ヴィーニョヴェルデの産地であるポルトガル北西部ミーニョ地方を訪れる機会に恵まれた。ヴィーニョヴェルデは、緑のワインを意味するその名のとおり、微発泡で爽やかなスタイルが人気のワイン。ポルト空港から市内へ向かう車内から見える景色はワインのイメージそのままで、青々とした緑でいっぱいだ。年間1200mmと比較的多い降水量が生育に向くのだろう、街のあちこちに紫陽花を見つけ、日本との共通点に嬉しくなる。
地場品種のオンパレード!
「ヴィーニョヴェルデの品種は?」と聞かれて答えられる人はワインのプロでも多くないだろう。認可されている47種は、なにせローカル品種のオンパレードなのだ。白ぶどうのロウレイロ、トラジャドゥーラ、アリント、アザール、アヴェッソ……なじみ深いアルバリーニョの名を見つけてほっとする。黒ぶどうはパデイロ、イシュパデイロ、ヴィニャオン……呪文のような品種名が並ぶ。ロウレイロは花や月桂樹の香りを持ち、病気に強く育てやすいため、栽培面積が一番多い。ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネといった国際品種を育てている作り手もいるが、かなりの少数派だ。
ヴィーニョヴェルデの品質はこの30年で大きく向上したといわれる。アルコール度数もかつては9-10度で”酸が高くてほのかに甘くて微発泡”が一般的だったのが、ぶどうの成熟度に比例して11-12度に上がり、より辛口にシフトした。また、品種をブレンドするのが通例のヴィーニョヴェルデにおいて、単一品種によるワインをリリースしたり、シュールリーや樽を使う生産者も増えてきた。
クラシックな作り手
伝統を大事にしている作り手として印象に残ったのが、1962年創立の協同組合「アデガ・ド・ギマランイス」だ。ワイナリーは、ポルトから内陸に車を走らせて約1時間、ギマランイス郊外にある。ギマランイスは、初代ポルトガル国王アフォンソ・エンリケスが生まれた街。「ここにポルトガル誕生す」とポルトガル語で書かれた壁はポルトガルでも有名な観光名所となっている。
▲サンティアゴ広場
街歩きの中心となるサンティアゴ広場からすぐの、地元の食堂で生産者と食事をご一緒させてもらった。リリースしているのは、「ギマランイス」シリーズと「サンティアゴ」シリーズ。このネーミングからも、この地域や伝統を大切にする姿勢がうかがえる。
「私たちのモットーは”good old time”を大事にすること。新しい試みに挑戦する作り手のことはリスペクトするが、私たちはこのヴィーニョヴェルデでワインを作り続けてきたルーツを大切にしたい」とオーナーのジョゼ・セケイラ・ブラガさんは、その地方に伝わる陶器のボウルを手に熱く語る。
▲「サンティアゴ」シリーズの赤、ヴィニャオン種100%。ヴィーニョヴェルデの赤ワインは、マルガシュという陶器のボウルで飲むのが伝統的
また、口に含んだときにぷちぷちと軽く泡を感じるのが、ヴィーニョヴェルデのクラシックなスタイル。もとは自然に発生した炭酸を残したまま瓶詰めし、そのフレッシュな味わいが人気になったというが、今では品質の安定化や濁りを防ぐために炭酸ガスを機械で注入することが多い。一方で、「ヴィーニョヴェルデ=微発泡」という型にとらわれずに、ワイン本来の味わいを際立たせようと奮闘する作り手が増えてきているのが今のヴィーニョヴェルデだ。
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挑戦する作り手たち
「うちは泡に頼らなくても、そのままのワインで美味しいからね」と、自信たっぷりに自慢のワインを紹介してくれたのは、「キンタ・ド・クルヴシュ」のミゲルさん。家族経営のワイナリーだがキンタ(農園)の敷地は35haもあり、日本からわざわざ輸入した約500種類の椿やオリーブ、ユーカリ、林檎や梨の木まで植えてある。紫色のアガパンサスが咲き乱れる庭園は、まるでディズニーランドのようだ。
▲「キンタ・ド・クルヴシュ」のオーナーのミゲル・フォンセカさん
豊富な資金を生かして、やりたいことを思う存分やっているワイナリー、という印象を持った。シュールリーや樽熟成、瓶内二次発酵のスパークリングから甘口ワインまで揃う。アルバリーニョやアヴェッソ、ロウレイロの50%はマセラシオンして香りを引き出す。炭酸ガスを人工的に入れているのは、エントリーレベルのブレンドのワインのみだそうだ。「これが一番イマイチ」とミゲルさんは肩をすくめるが、それでも「Superior」とワンランク上の品質表示がついている。
▲豊かなラインナップが揃う
ワイナリーツアー最終日に訪れた「カーザ・デ・ヴィラ・ノーヴァ」は、12世紀から続くレンカストロ家の8代目ベルナルドさんが2004年にワインビジネスを始めた家族経営のワイナリー。エントリーレベルのブレンドのワインのほかは、「品種の個性を打ち出したい」とすべて単一品種でワインを作っており、この地域では珍しく国際品種のシャルドネとソーヴィニヨンブランも栽培している。白ぶどう品種のアリント、アザール、アヴェッソの頭文字をとってアルファベットの「A」と大きく印字したラベルも一度見たら忘れられない。そのほかにも、樽を使ったアルバリーニョにはBarrique(樽)の「B」、残糖75g/Lの甘口のアザール種のワインにはDoce(甘い)の「D」を表示するなど、ラベルのデザインにワインの個性を出そうと工夫している。
▲ Arinto, Azal, Avessoの頭文字をとって「A」
▲ Doceの「D」
ワインに複雑さを表現できるアルバリーニョやアヴェッソには、樽を使うこともある。アルバリーニョは、ポルトガルとは川を挟んで向かい側のスペインのガリシア地方、とくにリアスバイシャスのスーパースター。ヴィーニョヴェルデのアルバリーニョは、スペインのものとはいくらかキャラが異なるように感じ、まだフレッシュで軽やかな印象が強い。それでも、ヴィーニョヴェルデの品種のなかでは骨格と熟成のポテンシャルがあり、複雑なワインに化ける可能性がある。
▲樽熟成したアルバリーニョとアヴェッソ
筆者にとって今回新たな発見だったのはアヴェッソ。例えばトリプルA(アリント、アザール、アヴェッソ)など品種ごとのテイスティングをしても、基本的にフレッシュ&フルーティーなスタイルのヴィーニョヴェルデでは微細な差を探る難易度が高い飲み比べなのだが、そのなかで一番キャラクターがはっきりしていたのがアヴェッソ。華やかなフルーツの香りが出やすく、アルコール度数が高めのフルボディのワインになりやすい。樽熟成したアヴェッソ100%のワイン(写真右)は、レモンタルトのような爽やかさと香ばしさ、クリーミーな質感が魅力的だった。
結局どこへ向かうのか?
微発泡でスッキリ爽やかな従来のスタイルを守る作り手、より本格的なワインを目指そうとする作り手。両方のアプローチをとる人もいる。スタイルが多様化するのは消費者にとっても選択肢が増えて嬉しいが、栽培醸造に手間暇をかけたワインは、小売価格も必然的に高くなり、ターゲット層も変わってくるだろう。
個人的にワイン単体として印象に残ったのは、アヴェッソやアルバリーニョなどの”複雑な”ワインだったが、おもえば、”複雑さ”をヴィーニョヴェルデに求めるべきだろうか。スイスイ飲める軽やかなワインがヴィーニョヴェルデの個性だとしたら、アヴェッソやアルバリーニョを重視しすぎることはヴィーニョヴェルデのオリジナリティを弱めてしまう恐れもあるのではないか。世界中であらゆるタイプのワインを作っている今だからこそ、ヴィーニョヴェルデの唯一無二の個性とはなんなのか、考えさせられるのだった。
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