はじめに
表ラベルに、2015年のオーストラリア産のワイン、品種はシラーズと英語で書かれているワインボトルがオーストラリアの小売店で売られていました。
ワイナリー名もラベルに書かれていますから、特段不思議なことはなさそうですが、裏ラベルをみると中国語です。
そして、このワインはコルク栓です。
オーストラリアの白ワインの90%以上、赤ワインの60%以上はスクリューキャップだと言われていますので、廉価なワインがコルク栓なのは解せません。よくわからないけれどこれは面白そうだと思い、購入してみました。
購入後、インターネットで探してみると、このワイナリーはオーストラリアには存在しないことがわかりました。オーストラリア産のワインなのにオーストラリアに存在しないワイナリーが造った、裏ラベルが中国語のコルク栓ワイン、この不思議なワインについて、中国のワイン市場とともに解説します。
中国のワイン市場と輸入ワイン
Reuter(2018)やロイター(2018)の記事によると、2017年のオーストラリア産ワインの輸出額は25億6000万豪ドルとなり、対前年比で15%増加しました。このうち、中国向け輸出は8憶8000万豪ドルで、オーストラリア産ワインの輸出の34%近くを占めます。オーストラリアにとって中国は重要な輸出先なのです。
オーストラリア貿易投資促進庁(Australian Trade and Investment Commission)の資料によると、オーストラリア産ワインの中国への輸出が増えた背景には貿易協定も影響しています。中国とオーストラリアのFTA(Free Trade Agreement)は2015年12月20日に発効し、14%から20%と高かったワインの関税は段階的に引きさげられることになりました。2018年に入り、関税は約3%まで下がっています。
中国のワイン市場の中でのオーストラリア産ワインはどうでしょうか。Anderson, Nelgen and Pinilla (2017)などの文献によると、中国のワイン輸入量は年々増えていて、中国へのワイン輸出量が伸びている国も多くあります。最大の輸出国はフランス、第二位にオーストラリアとなっています。ワインを介する両国の関係はかなり親密です。
オーストラリア貿易投資促進庁の資料には、中国のワイン市場に関する記述、消費者の嗜好に関する説明もあります。それによると、コルク栓のほうが伝統的で格式高く高級というイメージがある、ラベルは豪華に見えるもののほうが好まれる、といった記述がありました。オーストラリアのワイナリーが中国市場での販売を伸ばすためには、こういった情報も必要なのです。
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不思議なワインの正体
中国のワイン市場では、コルク栓のほうが好まれ、ラベルはポップなものより高級感漂うゴールドなどの色のものが好まれるようです。さて、冒頭の写真にあるワインはコルク栓で、どことなく高級感漂うマークがあしらわれています。裏ラベルは中国語で書かれています。そして、オーストラリア国内に、MULVALE ESTATEというワイナリーは存在しません。
いろいろ調べて、最後に中国人のワイン専門家に教えてもらったのは次のような事実でした。
このMULVALE ESTATEという名前はワイナリーではなく、中国の広州市(Guangzhou)に拠点を置く貿易会社ということでした。この貿易会社は、主に、オーストラリアのアデレード近郊のワイナリーからワインを買い取り、中国へ輸送しています。この貿易会社と取り引きのあるワイナリーは数軒あり(名前は伏せておきます)、この会社がワイナリーからワインを買い取り、中国市場で売っているということでした。MULVALEという名前はワイナリー名ではなく、この会社のブランド名だそうです。
元々のワイナリーはスクリューキャップでワインを販売していますので、この貿易会社はスクリューを外してコルクで栓をしていることになります。このワインのコルクにもブランド名が書かれています(下記の写真)。
どれも中国市場での販売を意識してのことだと理解できます。なぜこのワインがオーストラリアの小売店で売られているのかは、残念ながらわかりませんでした。
おわりに
中国のワイン市場と中国へのワイン輸出について、不思議なワインの話とともに説明しました。
不思議なワインの正体はわかったのですが、貿易会社がブランド名を配したラベルに張り替え、コルク栓に替えるということが果たして制度的に問題ないのか調べることは今後の課題です。
日本でもレストランの名前が入ったワインのラベルを見かけることはよくありますし、結婚式の引き出物に写真入りのラベルがあったりします。だいたいはワイナリーや製造業者に依頼して作成されたラベルです。輸入代理店に連絡して特注のラベルを張ることも可能です。
表ラベルをオリジナルラベルにするだけでなく、コルク栓まで替え、裏ラベルに元のワイナリーの情報が全くないことは問題ではないのでしょうか。商標法違反や意匠法違反など可能性は考えられるはずです。次はワインの商標について、そして最近話題の貿易協定の影響についても考えてみたいです。
参考文献
Australian Trade and Investment Commission (2017), Industries Export markets – China Wine to China Trends and opportunities,
Reuters (2018)「アングル:中国「爆飲み」に沸く豪州ワイン、風味にも影響か」2018年2月25日
Reuters (2018), Australian wine exports to China surge as FTA cuts tariffs, January 23, 2018
Anderson, Kym, Signe Nelgen and Vicente Pinilla (2017), Global Wine Markets, 1860 to 2016: A Statistical Compendium, Adelaide: University of Adelaide Press
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