はじめに
オーストラリアはワインを輸出する国としてよく知られています。国土は日本の約20倍の広さです。ワインを輸出する国ですし、国土も広いですから、大規模なワイナリーがたくさんあるというイメージを抱きやすいですが、実際はちょっと様子が異なります。今回は、オーストラリアのワイン産業の中でも、家族でワイナリーを経営しているような小規模ワイナリーに焦点を当てていきます。日本のワイン産業で似たような数字があれば利用し、両者を比べてみます。
日豪の小規模ワイナリーの数と規模
日本のワイナリー数は毎年増えているのですが、国税庁の資料(「国内製造ワインの概況 平成28年度調査分」国税庁課税部酒税課 平成29年11月)によると、2017年3月末時点でワイナリー業者数(ワイナリーとしての経営体の数)は267、ワイナリー場者数(ワイン醸造所の数)は283となっています。大規模にワインを造っているところは少なく、96.1%は小さい規模のワイナリーで、中小企業に属します。
一方のオーストラリアはどうでしょうか。Wine Australiaの「Small Winemaker Production and Sales Survey Report 2016-17」 (November 2017)というレポートによると、2017年9月時点で小規模ワイナリーは2054社あるようです。小規模なワイナリーとは、年間に圧搾するブドウ量が500トン以下のところと定義されています。日本で規模の小さいワイナリー数は250程度ですから、小規模なワイナリーは約8倍あるとみてよいでしょう。
500トンのブドウというのは多いのでしょうか。日本では、年間6000リットル以上生産しなければ果実酒製造免許を取得できませんので、一般にブドウ量では考えられていませんし、数字も拾いにくい面があります。 『Wines of Japan 日本のワイン』(2017年12月、イカロス出版)によると、例えば、1933 年創業の老舗のワイナリーで、長野県桔梗ヶ原にある井筒ワインは902トンのブドウを使っています。同じく長野県にある信濃ワインや山梨県にあるルミエールは、年間約300トンのブドウからワインを造っています。1974年創業の老舗のワイナリーで、北海道最大のワイナリーである北海道ワインは2,500トン程度のブドウを使いますから、500トンという規模は日本のワイナリーの生産規模で考えても、小さめのところとみていいでしょう。
このレポートは、2054社にアンケートを送付し、294社(14%)から回答を得ています。14%という数は、民間の調査レポートの回答率としては悪くありませんので、以下はこのレポートにある数字を紹介していきます。
オーストラリアのワイン産業全体に占める小規模ワイナリーの存在
どのくらいのワインを造っているのか聞いた質問では、15,000リットル(ボトル数にすると2万本)以下という回答が42%、35,000リットル(4万7千本弱)以下までで60%以上を占めます。造られるワインは多くありませんので、ワインの86%は国内で消費されます。オーストラリアのワイン産業全体では60%のワインが輸出に回っていますので、小規模ワイナリーは現状をみると輸出志向ではないといえます。1リットルあたりの単価は11.41ドルと推定されていて、これは規模が小さくなるにつれて上昇する傾向にあります。
スーパーの店頭には大手ワイナリーが安価につくる数ドル程度の安い価格帯のワインがありますが、それに比べると小規模ワイナリーのワインは価格面では見劣りするかもしれません。ではどこで販売されているのでしょうか。ワイナリーでの直販(セラードアでの販売)が30%ですが、一番多いのは小売店での販売で、45%あります。大手の安価なワインとの競争は意外に少ないのかもしれません。利益の増減を聞いた質問では減益になったところは16%、10%が変化なしと答えていますが、73%のワイナリーが増益と回答しています。
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セラードア(直販)の重要性
セラードアでの販売は30%と、販売チャネルとしては2番目に位置するのですが、一番成長しています。DTC(Direct-to-consumer)と呼ばれる自社ホームページでの販売なども17%ありますので、この両者をあわせるとほぼ半分となります。セラードアでの販売が増えたと回答しているワイナリーは57%あり、販売が減ったとするところは15%でした。DTCも増えたという回答は、減ったとする回答よりも多いのですが、DTCに関して一番多かったのは変化なし、でした。
小規模ワイナリーで造られたワインの半分は、ワイナリーを訪問する人やWebサイトから購入する人への販売で売れるとみていいでしょう。直販は増えているところが多いということから、ワイナリーにきてくれる人を増やす努力が必要とされていることもわかります。
ワイナリーを訪れる人のほとんどはワインが好きな人ですが、ワインツーリズムを考える際には他のサービスも必要になります。たとえば、レストランや宿泊施設があるとゆっくり巡ることができますし、車のない人などにはツアーサービスがあることも必要です。小規模ワイナリーでセラードアを設けているところは7割あります。レストランを併設しているところ、試飲販売以外のお店も出しているところ、宿泊施設も持っているところはどれも2割程度と少なめです。
小規模ワイナリーのビジネスモデルと今後
オーストラリアの小規模ワイナリーについてみてきましたが、今後のビジネスモデルについても調べてみます。過半のワイナリーは自社栽培のブドウが90%以上を占めていて、ほぼ半分のワイナリーは自社で醸造しています。10%のワイナリーは委託醸造のようですし、農家からブドウを購入しているワイナリーもありますが、オーストラリアの小規模ワイナリーの代表的な姿は、自分で育てたブドウでワインを自ら造っているところ、といえるでしょう。
従業員数は平均で9人ですが、フルタイムで働く人は平均で5人ほどです。小規模ワイナリー全体では、1万6500人ほどの人が働いていると推定されます。
日本の小規模ワイナリーはどうでしょうか。小規模ワイナリーの定義はオーストラリアと異なりますが、国税庁の資料では、100キロリットル未満の製成数量が一番小さなくくりです。100キロリットル未満のワイナリーはは190社あり、5236トンの原料のうち4989トンは国産の生ブドウを使ってワインを造っています。日本のワイナリーは農家からのブドウの買い取りも多いのですが、地元で育ったブドウでワインを自ら造っている点は同じ、といえるでしょう。
小規模ワイナリーが課題として挙げているのは、海外市場を開拓すること、セラードアやオンラインの充実などのようです。ワイナリー大手30社に加え、752社の中小ワイナリーが輸出をしていますが、大手30社には及ばず、中小ワイナリーから輸出されたワインの金額は3億5300万ドル、輸出ワインの10%を占めるにすぎません。
中小ワイナリーからの輸出のうち、1億1800万ドル分は中国へ、5000億ドル分は米国へそれぞれ輸出されます。中国と米国に続く市場としては、香港や日本があげられます。輸出されるワインの単価は1リットルあたり8.14ドルと低めです。
輸出にはまだまだ課題がありますし、小規模ワイナリーに立ち寄ってもらうための工夫も欠かせないようです。そのほか、競争の激化や気候変化の影響、人件費などのコストの重さもワイナリーにとって課題として挙げられています。
オーストラリアの小規模ワイナリーの現状と課題をみてきました。日本では国税庁のレポート(果実酒製造業の概況)など関連するものはありますが、同様の調査はまだありません。ワイン産業の分析が進み、業界をサポートする体制が整っていくことを期待したいです。
関連Webサイト
国税庁 果実酒製造業の概況
http://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/seizogaikyo/09.htm
Small Winemaker Production and Sales Survey Report
https://www.wineaustralia.com/market-insights/small_winemaker_survey
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