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世界のワイン統計の真実

Kimie
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一国のワイン統計から世界のワイン統計へ

日本では、主として国税庁がワインを含めた酒類に関するデータを集め、集計して公開しています。1
なぜ国税庁から?という疑問を抱く人は多いかもしれません。ワインはビールや他のアルコールと同様、酒税がかかります。今の日本ではちょっとイメージできないことですが、酒税は明治時代中期以降、しばらくの間、国税の税収第1位だったのです。
昭和10年代には、所得税や法人税の税収が伸び、酒税は首位から脱落しましたが、ワインをはじめ、お酒に関することは今も国税庁が管轄しています。国税庁からは「民間給与実態統計調査」や「会社標本調査」など、お酒以外の統計もたくさん公表されています。
日本のワイン統計が国税庁から公表されていることは、日本人に限らず外国の人にも少し不思議なことのようです。たとえば、フランスでは農業省統計局から、オーストラリアでは統計局から、それぞれワインに関する統計が公表されています。国によっていろいろですね。

ワインの統計をそれぞれの国から集めるのは大変です。現地の言葉がわからないと探せないかもしれませんし、通貨も違いますから、同じ尺度で示すなら為替レートも関係してきます。単位も違うでしょう。日本のワイン統計では、ワインの量はリットルで表示されますが、フランスなど欧州ではヘクトリットルで表示されるところが多いです。また、会計年度の違いも大きいです。日本やカナダでは4月から3月が会計年度ですが、オーストラリアは7月から6月です。

各国のワインのデータを集めたとしても、こういったことを全て考慮に入れて図表を作ったりするのは非常に煩雑です。そこで、各国にワイン統計を提出してもらって、その統計をまとめて加工して、世界のワイン統計として公表している機関が複数あります。


世界のワイン統計

パリに本部があるOIVInternational Organisation of Vine and Wine、日本語では国際ブドウ・ワイン機構と呼ばれたり、国際ブドウ・ブドウ酒機構と呼ばれたりします。 )は、日本でもよく知られています。フランスにありますが、フランスの政府機関ではありません。他には、国連の機関であるFAOFood and Agriculture Organization 、国連食糧農業機関)もあります。

グローバル化の時代、ワインは輸出され、輸入されています。ワインの貿易に関するデータも国際的に取りまとめられています。UNSDUnited Nation’s Statistical Department、国連統計局)では、UN Comtrade(国連商品貿易統計データベース)を公開しています。各国のワイン統計で集められる情報は、必ずしも同じではありませんので、データベースを作るときに空欄ができてしまうこともあります。このデータベースでは、一部の国のデータを空欄にしないよう、前出のOIVデータから推計するなどしています。国際的なデータを整備するのは、私たちが考える以上に面倒で大変なことなのです。2


国際的な統計を作る難しさ

先の記事(ワイン統計の真実)でもお伝えしましたが、国際的にワインの消費量を把握することは難しいのです。たとえば、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development、経済協力開発機構、フランスのパリにあります)は、加盟国のアルコール消費量を1960年代から公表しています。2000年に入ってからは、中国やインドといった加盟国以外についても同様のデータを公開しています(http://www.oecd.org/health/health-statistics.htm)。

WHO(World Health Organization、世界保健機関)では、国連加盟国全てについて、ワインだけでなく、ビール、スピリッツ、その他(http://apps.who.int/gho/data/node.main.A1026?lang=en?showonly=GISAH)に分類された酒類の消費量を公開しています。これら国際機関のデータは、各国が提出したデータに基づいて作成されています。3

これらの統計資料には日本のワイン消費量というデータがあります。ですが、国税庁から公表されるワインに関する統計に、ワインの消費量という厳密な統計は存在しません。ここまで読んでいただくと、「ん?どういうこと?」と思われるはずです。国に統計がないのに、国際的には統計がある、腑に落ちませんね。

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国税庁から公表される統計の数値には「酒類販売(消費)」や「酒類課税数量」、「課税移出数量」などと書かれています。日本では、ワイナリーや工場から出荷されるときに酒税が課されます(酒税法第6条1項に依ります)。4ですので、OIVなどの国際的な統計でわたしたちが目にする日本のワイン消費の数字は、国内での課税移出数量に純輸入(輸入から輸出をひいたもの)を足し合わせた数字になります。

国際的に統一されたフォーマットのデータがあると、国毎の比較ができて便利ですが、作る側には様々な苦労があります。空欄が多いと利用者にとっては使いにくいですから、データを提供する側としてはいろいろな調整や推計をして、空欄を作らないようにしています。

以上、国際的な統計にまつわる話でした。



===文中の補足説明===

1

総務省統計局の「家計調査」では、ワイン1世帯当たり年間支出金額がわかるなど、他の統計もあります。ブドウ生産については、農林水産省の「作物統計調査結果」があります。ブドウの生産量はわかるのですが、ワインに使われるブドウの量が統計で把握されていないなど、日本にはワイン統計に関する課題も残っています。関東農政局は、醸造用ぶどうの生産、流通等のデータを公表していますが、限定的です。

2

商業目的で、有料でワイン統計を販売している会社もあります(Global Trade Atlasなどです)。会員登録すれば、ワインに関する様々な情報が得られるWebサイトもあります。
Wine Australiaは、登録するとレポートなどが読めますが、一部制限があるものもあります。イタリア語が分かる人なら、UIV (Unione Italiana Vini)など、ローカル言語で書かれているサイトなどもあります。

3

消費に関するデータは、民間の調査会社のものもあります。たとえば、英国のEuromonitor International (ユーロモニター・インターナショナル)や、同じく英国のInternational Wine and Spirit Researchという酒類に関する調査会社からレポートがだされています。

4

移出という言葉がわかりにくいですが、これは工場やワイナリーから持ち出された(移出された)ということを指します。ワインやビール、ウィスキーなど酒類に応じて税率が違いますので、酒類ごとに数量に応じて課税される仕組みです。未納税移出(酒税が免除されて移出されるもの)と輸出される分は課税移出数量には含まれません。



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