EU加盟諸国では、ワインの輸出入や醸造法、ラベルの書き方について取り決めたいわゆる「ワイン法」というものがあります。この「ワイン法」のお手本となったのは、フランスの「A.O.C」です。
フランスから見れば外国人である私たち日本人にとっては、フランスの法律どころかフランス語さえままならず、ラベルを読むというのは難しく感じられます。しかし、いくつかのポイントを押さえれば、ラベルを読むのはさほど難しくありません。さらに、ワインのラベルを読めるようになると、まだ開けていないワインの味わいをイメージできるようになるなどのメリットがあります。今回は、フランスワインのラベルの読み方(ボルドー編)をご紹介します。
産地の表示は品質保証の証
ボルドーのワインと言えば、赤ワインがよく知られています。しかし、高品質で有名なボルドーの赤ワインとは言っても、質や味はさまざまなのです。ワインはボトルを開けて実際に飲んでみなければ、どんな味や香りがするのかはわからないものですが、だからと言って何もヒントがないわけではありません。ラベルによって、ある程度の味を想定することができます。
ワインのラベルを見るときのコツとして、まずは「産地」の表示で品質を見分けると良いでしょう。特にボルドーのワインの場合は、産地の表示が詳細であればあるほど品質の高さが保証されているということを意味しています。産地の表示は大きくA.O.P(A.O.C)とI.G.Pの2種類に分けることが可能です。
「A.O.C」と「A.O.P」とは
A.O.C(Appéllation d’Origine Controlée)とは、EUの「ワイン法」のお手本となったフランスの品質保証水準です。フランスでは古くからA.O.Cがありましたが、EU法上はA.O.Pとされ、2009年以降はフランスでも基本的にA.O.Pで表示することとなっています。つまり、A.O.CとA.O.Pは同じ品質という意味なのです。
A.O.Pは、その産地のぶどうの使用割合が100%であることや醸造方法、ブドウの栽培方法などの数々の条件を満たし、かつ、厳しい審査を通過したワインでなければ表示することができません。ラベル上には「Appellation Bordeaux Contrôlée」と表記されます。「Bordeaux」の部分は産地を意味しており、このフランス語はボルドーという意味です。産地の表記が詳細であればあるほど、長ければ長いほど品質は高くなります。
ボルドーのA.O.P(またはA.O.C)の見方
ボルドーで認められているA.O.Pは、まず、以下の7つの地区に大別することができます。
Bordeaux(ボルドー)、Côtes de Bordeaux(コート・ド・ボルドー)、Médoc(メドック)、Graves(グラーヴ)、Saint-Émilion(サン・テミリオン)、Fronsac(フロンサック)、Pomerol (ポムロル)
以上の地区名だけではなく、村や畑などが詳細に記載されていると、さらに品質保証は高い水準になっているのです。例えば、「Appellation Pomerol Contrôlée(ポムロル)」が「「Appellation Lalande de Pomerol Contrôlée(ラランド・ド・ポムロル)」のように表記されます。
産地の詳細は地方(ボルドーなど)、地区(メドックなど)、村、畑の順に詳細になっていきます。品質の良いボルドーのワインを選びたい場合は、ボルドー地区の地名を覚えると良いでしょう。村名にはMargaux(マルゴー)、Saint-Julien(サン・ジュリアン)、Moulis(ムーリ)、Pauillac(ポイヤック)、Listrac(リストラック)、Saint-Estèphe(サン・テステフ)などがあります。
ボルドー・スュペリュールとは?
「Appellation Bordeaux supérieur Contrôlée(ボルドー・スュペリュール)」は、通常のボルドーA.O.Pよりもより厳格な品質基準を満たしたワインです。具体的には、ブドウの収穫量がA.O.Pよりも少なく、かつ、アルコール度数が10%以上でなければなりません。特別な日や、品質の良いワインを味わいたいという方におすすめのワインです。
「I.G.P」とは
I.G.Pとは、「Indication géographique protégée」の略で、A.O.Pに次ぐ品質のワインのことです。A.O.Pとの違いは、A.O.Pがその産地のぶどうを100%使用しなければならないのに対し、I.G.Pは、その産地のブドウを85%以上使用していることとされます。また、A.O.Pは栽培方法等の審査基準が厳格であるのに対し、I.G.Pは一定の品質、社会的評価、あるいは特性のいずれかが認められるだけでよいのです。ラベルには「I.G.P Pays D’oc」や「Vin De Pays D’oc」と表記されます。
I.G.PはA.O.Pほどクリアすべき品質基準は厳しくないものの、質が悪いというわけではありません。A.O.Pよりも価格は安い傾向にあるものの、フルーティーな香りやチョコレートのフレーバーであったり、飲みやすい口当たりであったりするなど、初めてワインを口にする方や赤ワインのえぐみが苦手と言う方におすすめのワインです。
銘柄を意味する「シャトー」
ワインの銘柄は、産地やブドウの品種名、醸造元の名前がつけられます。特にボルドーのワインの銘柄には「Château(シャトー)」がつくことが多いです。「シャトー」とは、生産者のことを意味します。ボルドーでは昔から、大きな自宅兼醸造所と、広大な敷地で大規模にワインを生産していました。その規模の大きさから、ワイン醸造に対しフランス語の「お城」を意味する「シャトー」が用いられるようになり、現在でも使われているのです。「シャトー」は「CH.」と略されることもあります。「シャトー」は生産者そのものを意味しますので、近隣のブドウ畑を購入して敷地を拡大したとしても、名称は変わりません。
これに対し、ブルゴーニュ地方で用いられる「Domaine(ドメーヌ)」の場合、「ドメーヌ」が「所有地」を意味します。したがって、ブドウ畑の敷地を拡大すると生産者名が別名になってしまうのです。地方によってこのような細かな違いがありますので、フランスワインのラベルを知っておくことは重要なのです。
ボルドー5大シャトー
ボルドーには、世界でもトップクラスの品質のワインを作る有名な「シャトー」が5つあります。「シャトー」を知っているだけでも、ワイン選びに大きな影響を与えるので詳しく見ていきましょう。
関連記事:「ボルドーの5大シャトーについて今一度詳しく解説」
(1)Château Margaux(シャトー・マルゴー)
日本でも有名で人気のあるのはシャトー・マルゴーです。芳醇で繊細な味わいが楽しめるワインで、「フランスワインの女王」とも言われます。メドック地区で生産される第1級ワインで、年間35万本しか生産されません。ルイ15世の妾デュ・バリー夫人や、作家ヘミングウェイも好んだとされます。
(2)Château Lafite-Rothschild(シャトー・ラフィット・ロートシルト)
メドック地区の第1級ワインの代表とされるのが、シャトー・ラフィット・ロートシルトです。ヴェルサイユ宮殿でボルドーワインが注目されるようになったきっかけのワインであり、「王のワイン」とも言われます。同シャトーは年間に約42万本のワインを生産しますが、そのうちの約2万ケース程度のみがシャトー・ラフィット・ロートシルトになるのです。
(3)Château Haut-Brion(シャトー・オー・ブリオン)
グラーヴ地区の第1級ワインで、ボルドーのワインの中でも一番古いのがシャトー・オー・ブリオンです。イギリス王室に愛された歴史があり、哲学者ジョン・ロックも味わったとされています。製造において熟成に時間をかけることから、複雑な香りながらエレガントな味わいを楽しめるのが特徴です。
(4)Château Latour(シャトー・ラトゥール)
メドック地区の第1級ワインで、ヒノキやスギの香りに加え、フルーティーな甘さを楽しめます。ラベルにある塔が有名なシンボルです。
(5)Château mouton rothschild(シャトー・ムートン・ロートシルト)
メドック地区のワインで、一度は第1級の格付けから外されたものの、再び1級に舞い戻ったという特殊な経緯があります。ラベルのデザインに優れた芸術家のデザインを使用するなどの特徴があることでも有名です。シャガール(1970年)やピカソ(1973年)などがラベルデザインを手がけました。
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銘柄でのチェック事項
特にボルドーのワインで「シャトー」が銘柄としてついている場合は、その生産者の作ったワインの中でも、最も品質の良いワインであることを意味しています。これは「ファーストラベル」と言われているのです。
「シャトー」ほどの品質ではないものは、「セカンドラベル」として売り出されます。例えば、ボルドー5大シャトーのセカンドラベルは、以下のとおりになっています。
(1)Pavillon Rouge duChâteau Margaux(パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー)
シャトー・マルゴーのセカンドラベルです。パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴーはファーストラベルの品質に満たなかったセカンドラベルですが、さらにその品質に達しなかったワインは「マルゴー」というサードラベルとして売り出されることもあります。
(2)Carruades De Lafite-Rothschild(カリュアド・ラフィット・ロートシルト)
シャトー・ラフィット・ロートシルトのセカンドラベルです。
(3)Le Clarence de Haut Brion(ル・クラランス・ド・オー・ブリオン)
シャトー・オー・ブリオンのセカンドラベルです。2007年以前のセカンドラベルはChâteau Bahans Haut-Brion(シャトー・バーンズ・オー・ブリオン)でした。
(4)Les Forts de Latour(レ・フォール・ド・ラトゥール)
シャトー・ラトゥールのセカンドラベルになります。特徴的なのは、ファーストラベルのワインとは別の畑の区画から収穫されたブドウを使用して生産されていることです。
(5)Le Petit Mouton De Rothschild(ル・プティ・ムートン・ド・ロートシルト)
シャトー・ムートン・ロートシルトのセカンドラベルです。ファーストラベル同様、複雑な香りと深い芳醇さが味わえます。
西暦はブドウの収穫年
ラベルに記載されている西暦は、ブドウを収穫した年を意味しています。これは「ヴィンテージ」と言って、味と値段に関わってくるのです。
まず、収穫した年の天候によって、原料となるブドウの味や香りは大きく変わります。ブドウは水はけがよく、寒暖差が大きいほど質が良くなるのです。次に、出来の良い年のワインは、長期保存をすることができます。さらに、長期熟成をさせると、味に深みがでてきます。
このような、その年のブドウの出来、さらにはワインの出来というのは、毎年「プリムール」という品評会で決定されるのです。そこで出来の良かった年のワインは「ヴィンテージ・ワイン」と言われます。逆に、プリムールでその年のワインの出来が良くないとされたとしても、決してワインがまずくなったわけではありません。ワインの保存と熟成の期間が短いということがわかった、つまり飲み頃が早くやってくるのが早いだけなのです。
どの都市が当たり年なのかは、「ヴィンテージ・チャート」で知ることができます。ただし、ヴィンテージ・チャートは地区ごとの記載になっているため、どのシャトーの出来が良いかまではわからないという点に注意です。
産地と銘柄がワイン選びのカギ
ボルドーのワインを選ぶ場合には、産地と銘柄に特に注目しましょう。産地は「Appellation Bordeaux Contrôlée」と表記してあればボルドーワインに間違いはなく、「Bordeaux」の部分が長ければ長いほど品質は高いものです。産地を選んだら、次は銘柄を確認しましょう。特に「Château Margaux(シャトー・マルゴー)」は「フランスワインの女王」とも言われ、世界的にも高い評価を受けています。セカンドラベルは「シャトー」のつくファーストラベルほど高値ではなく、それでありながら高品質なので、カジュアルに楽しみたい方におすすめです。
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