ようこそ、ニュージーランドワインの世界へ!
時をさかのぼること、1999年――。
ルネサンス期を代表するフランスの占星術師、ノストラダムスが「1999年の七の月に、恐怖の大王によって人類が滅亡する」と予言したことで、世間がちょっとだけソワソワしていたとき、僕はニュージーランドでのんびりとワインを飲んでいました。
ただ、当時の僕はワインへのこだわりなど持ち合わせていたわけでもなく、「フランスかイタリアのワインでも“たしなんで”いれば、きっとカッコよく見えるだろう」くらいの感覚です(笑)
あるとき、ワインショップへ行き、いつものように店主にこう訊ねました。
「フランスか、イタリアのワインはありますか?」
すると、店主から思わぬ反撃を受けることになります。
「お前はニュージーランドにいるんだろ? だったら、ニュージーランドのワインを飲め!」
それは提案というより、なかば強引な命令口調だったことを、いまでも鮮明に覚えています。あっさりとその気迫に負けた僕は、店主が勧めるニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランを飲むことになります。もしあのとき、あの店主が商業至上主義で、それなりのフランスかイタリアのワインを僕に売りつけていたとしたら……。きっと、このような連載を始めることはなかったかもしれません。なぜなら、はじめてニュージーランドワインを飲んだあのときに、僕のニュージーランドワイン人生の幕が切って落とされたからです。
「なんて爽やかですっきりした味わいなんだろう!」
これが、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランをはじめて飲んだ僕の感想です。
見事に! といっていいのか、くしくもノストラダムスの予言が外れてくれたことで、僕はニュージーランドワインを追求できる運びとなります。というもの、世界が「ミレニアム問題」で揺れていたちょうどそのころ、ニュージーランドワインは急成長を遂げていた時期だったのです。
そのとき、ニュージーランドワインは世界中のワイン評論家から絶賛の嵐、それにともない世界のワイン愛飲家を唸らせていましたが、それでもニュージーランドワインの産業自体は、全世界のワイン生産量のたった1%にすぎませんでした。
では、なぜそんな小規模な産業が、世界のワイン産業を席巻していったのか。それは、品質に対して並はずれた情熱を注ぐワイナリーが多かったから。すなわちそれは、「薄利多売」ではなく、「厚利少売」という考え方が、ニュージーランドワインのブランド価値を高めていったというわけです。
「情熱さえあれば、世界最高品質のワインが造れるのか?
この問いには、賛否両論わかれるところではないでしょうか。僕の個人的な意見を述べるのであれば、答えは「ノー」です。
なぜなら、ワイン造りというのはブドウの作り手や醸造家の腕もさることながら、人間の“手”だけでは、どうにもならないことがあるからです。それは、ワインを造る環境です。年間を通した気候、そして土壌など……。世界最高品質のワインは、こうした環境が整って、はじめて生み出されるというのが、僕の意見だからです。
「AOTEAROA(アオテアロア)」
ニュージーランドの先住民族、マオリの言葉で「長く白い雲のたなびく地」という意味があります。そんな、白く長い雲のたなびくニュージーランドのワイン造りにおける環境とは、いったいどんなものでしょうか。それはまさに、神が与えた偶然の産物ともいえるかもしれません。
なぜなら、国土のほとんどが海洋性気候に属するニュージーランドは、「一日のなかに四季がある」といわれるほど朝晩と日中の気温差が激しく、これがブドウの熟成を促すといわれているからです。
しかも、それだけではありません。神が与えた偶然の産物たる所以は、ニュージーランド各地での気候や土壌が異なることで、その土地の条件を生かしたブドウを栽培できることから、多種多様なスタイルのワインの生産が可能だということ。そんな、恵まれた環境でつくられているのが、ニュージーランドワインなのです。
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あのルイ・ヴィトンが認めた『クラウディ・ベイ』というワイン
この連載をはじめるにあたって、あるひとつのテーマを設けました。
「百聞は一飲にしかず」
つまり、このコラムを読んでくださる方々に、単なる情報提供をするだけではなく、可能であれば次のことを実際に体験してほしいと考えました。
1.ニュージーランドワインを飲んでもらいたい
2.ニュージーランドに行ってワイナリーを巡ってもらいたい
3.ニュージーランドを好きになってもらいたい
やっぱり、人は何かを得るときというのは、頭だけに詰め込む「知識学習」よりも、実際に身を持って体験する「経験学習」のほうがいい。それが僕の考え方です。だから、できるだけ経験学習していただけるような、背中をぽんと少しだけ押せるような、そんなことを心がけながら、この連載を進めていきたいと思います。その先陣を切ってご紹介するのが、『クラウディ・ベイ(CLOUDY BAY)』というワインです。
「クラウディ・ベイを知らずして、ニュージーランドワインは語れない」
ちょっとニュージーランドワインをかじったことがある人は、こんな話を聞いたことがあるかもしれませんね。それもそのはず。ニュージーランドワインを世界的地位に高めたパイオニア、それがこのクラウディ・ベイなのです。
しかもこのクラウディ・ベイ、あの高級ブランドバッグで有名な「ルイ・ヴィトン」のグループ企業というのですから、その品質は折り紙つきです。ワイン好きの方に、もっとわかりやすい説明をするのであれば、モエ・エ・シャンドン、 ヴーヴ・クリコ、そして日本でも人気の高いドン・ペリニヨンとも同じグループなのです。
そんなクラウディ・ベイは、ニュージーランドの南島北部(下地図参照)にあるマールボロ地区で誕生し、世界中が認めるソーヴィニヨン・ブランや、ピノ・ノワールを生産しています。
https://www.mhdkk.com/brands/cloudy_bay/(日本版公式サイト)
https://www.cloudybay.co.nz/(ニュージーランド版公式サイト)
「ルイ・ヴィトンが造っているワイン!? ぜひとも飲んでみたい!」
こんな声が聞こえてきそうですが、ニュージーランドへ行かずとも、日本でももちろん飲むことができます。いまでは、楽天やアマゾンといったネット通販で買うこともできますし、百貨店をはじめ、明治屋や成城石井といったスーパーでも取り揃えているところもあります。僕のおススメは、2つの異なるソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールの飲み比べ!
【ソーヴィニヨン・ブラン】
パッションフルーツの瑞々しいアロマと、マンダリンオレンジのような豊かな果実味、ハーブや青リンゴを思わせる爽やかな酸味のバランスが秀逸。
ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランらしい味わい
【ソーヴィニヨン・ブラン「テココ」】
爽やかですっきりとしたソーヴィニヨン・ブランとは対照的に、テココは樽で自然発酵・長期熟成させた、ひとつ上のソーヴィニヨン・ブラン。完熟した柑橘類やトロピカルフルーツのアロマと、ブリュレやキャラメルのようなフレーバーを持つ力強い味わい。ちなみに、テココとはマオリの言葉で「クラウディ・ベイ」という意味。
【ピノ・ノワール】
ダークチェリーやワイルドベリーの果実味と野性味溢れるスパイスのアロマがあり、滑らかなタンニンと深みある味わいが非常にエレガントな仕上がり。
【ピノ・ノワール「テワヒ」】
このピノ・ノワールはマールボロ地区ではなく、南島の南東部に位置するセントラル・オタゴという場所で造られているピノ・ノワールのスペシャルリザーヴ。
官能的で甘くリッチなフルーツ、濃縮されたふくよかな味わいと鮮明な酸味、しなやかなタンニンのバランスが素晴らしく、長く続く複雑な余韻が魅惑的なワイン。ちなみに、テワヒとはマオリの言葉で「その場所」という意味。
ぜひとも、ルイ・ヴィトンが惚れ込んだクラウディ・ベイを、ニュージーランドワインの登竜門として試してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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